2014年10月24日金曜日

いわゆるマタニティハラスメント事案の最高裁判決

23日、妊娠中の女性に対する降格を男女雇用機会均等法(均等法)に違反するとした最高裁判決が言い渡されました。

(判決全文)

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/577/084577_hanrei.pdf

近年、妊娠や出産をきっかけに解雇・雇い止めされたり、減給、降格されるなどの嫌がらせを職場で受けるマタニティ・ハラスメント(マタハラ)が社会問題化している中で、今回の最高裁判決の判断には大きな注目が集まっていました。

本件は、病院に勤務する理学療法士で管理職の女性従業員が妊娠中のため軽易な業務への転換を請求したことによる異動の際に、管理職手当の支給を受けられなくなる降格を受けた事案です。

最高裁判決は、妊娠中の軽易業務への転換による降格一般について、次の判断を示しています。
 一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ、上記のような均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば、女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが、当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度、上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。そして、上記の承諾に係る合理的な理由に関しては、上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって、上記措置の前後における職務内容の実質、業務上の負担の内容や程度、労働条件の内容等を勘案し、当該労働者が上記措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得た
か否かという観点から、その存否を判断すべきものと解される。
・・・また、上記特段の事情に関しては、上記の業務上の必要性の有無及びその内容や程度の評価に当たって、当該労働者の転換後の業務の性質や内容、転換後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況、当該労働者の知識や経験等を勘案するとともに、上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって、上記措置に係る経緯や当該労働者の意向等をも勘案して、その存否を判断すべきものと解される。
このように、判決では、「特段の事情」がない限り、妊娠中の女性従業員に対する降格は原則として均等法に反するものであるという規範が示されました。

そして、本事案について判決は、
  1. ①軽易業務への転換に伴い降格をする業務上の必要性・程度や②業務上の負担の軽減の内容や程度を基礎付ける事情が会社側によって明らかにされていないこと
  2. 形式的には従業員の承諾はあるものの、自由な意思によって降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由はないこと
を認定し、「特段の事情」を認めませんでした。

最高裁が妊娠による軽易業務への転換に伴う降格について一般的規範を示したことや「特段の事情」の認定の仕方は、労務管理実務上大いに参考となるものです。

2014年10月16日木曜日

ホームページをリニューアルしました

この度、当事務所のホームページをリニューアルしました。
これとあわせて法律情報ページを拡充しました。

九段アローズ法律事務所ホームページ:http://arrows-law.jp/

法律情報ページ:http://arrows-law.jp/wordpress/

法律情報ページでは、長文にわたる特集記事や本ブログのアーカイブである過去の記事を掲載します。新たに以下の特集記事を掲載していますので、ご興味のある方はご覧ください。


2014年10月5日日曜日

IPA「組織における内部不正防止ガイドライン」改訂版の公表

9月26日、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、「組織における内部不正防止ガイドライン」を改訂しました。
本改訂は、2014年に入ってからベネッセ事件といった退職者、従業員および業務委託先関係者による情報流出事件が発生したことにともなうものです。

プレスリリース http://www.ipa.go.jp/files/000041997.pdf
主な改訂内容 http://www.ipa.go.jp/files/000041998.pdf
本文  http://www.ipa.go.jp/files/000041054.pdf


1.経営層によるリーダーシップの強化


経営者が自らの責任で行うことの強い意識を持ちリーダーシップを発揮することが必要であるため、経営層の責任を明確化しました。
  • 経営層の責任をより明確にし、組織の経営戦略に則って内部不正対策の基本方針と、必要なリソースの配分を行い、対外的な説明責任も負っていくこと
  • 重要情報保護の専門部署の設置の検討
  • 責任者・担当者に必要な能力の確保(外部専門家の採用、研修等の実施)
  • 経営者は、「基本方針」に基づき対策の実施のためのリソースが確保されるよう、必要な決定、指示を行わなければならない。

2.情報システムの管理運用の委託における監督強化


業務委託先のセキュリティ対策・体制が、扱う情報の重要度に相応かどうかを契約前、契約中にも確認・評価することを追加しました。


  • 業務委託に際し、委託先の情報セキュリティ対策、体制に対する評価の実施、および業務委託を実施する場合の必要な体制の確保
  • 委託先に対する業務委託中の監督
  • 再委託する場合、委託元への事前承認
  • 内部不正が発生した際の委託元と委託先間の事後対策の連携

 

3.高度化する情報通信技術への対応



高度化する情報通信技術に付随して高まるリスクを確実に把握することが可能な、体制、教育などの人的対策、技術の進展に沿った最適な対策の必要性について強調しました。

  • 技術の進展を常に見据えた継続的な対策の見直し
  • スマートデバイスなどによる情報の持ち出しを抑止する対策
  • 適切なアクセス権限の設定
  • 管理、およびアクセスの監視
  • ログ活用による監視

一連の事件を受けて情報管理規程の作成・見直しを行っている企業が多いと思われますが、今回のガイドラインの改定は参考となるものです。また、業務委託先との契約がガイドラインに照らして問題となっていないか(例えば、委託者側の監督権や再委託の事前承認権が明確に規定されているか)もチェックするべきでしょう。