2014年9月25日木曜日

オレオレ詐欺の量刑の厳罰化傾向


近年、オレオレ詐欺(振り込め詐欺)の量刑が極めて厳しくなっています。私が最近担当した事件では同種前科がないにもかかわらず、頼まれて数日間の受け子(ATMからの現金の引き出し役)を行っただけで、窃盗により懲役2年を超える実刑判決が言い渡されたという事案がありました。

以前の集団犯罪では末端レベルで初犯であれば、執行猶予となることが多かったと思いますが、オレオレ詐欺に関しては末端レベルでも実刑になるようです。


日本中でこれだけオレオレ詐欺の被害が拡大している以上、裁判所は一般予防の見地から厳罰に処すということであり、こうした傾向は当面変わらないでしょう。
 しかしながら、世間ではオレオレ詐欺に関与した場合は原則として実刑になるという危険があまり知られておらず、学生がアルバイト感覚でオレオレ詐欺に関与するようなケースも報道されています。

実刑となった場合、人生における損失は計りしれません。オレオレ詐欺に関与することの危険性を強く認識し、くれぐれも甘い誘いに乗らないようご注意ください。

そして、被告人に詐欺に関与しているとの明確な認識がなかったとしても、刑事裁判では、違法な引き出しに関与しているという認識(他人名義のキャッシュカードを使用したり、報酬を受領していれば、このような認識は認定されやすい)があれば、少なくとも「未必の故意」が認定され、オレオレ詐欺の共犯に準じた重い量刑となります。

なお、オレオレ詐欺の量刑では被害回復が極めて重要となります。逮捕された場合は、早期に被害者との示談に向けて努力すべきでしょう。

2014年9月18日木曜日

スーパー倒産、買い物客1万3000人が債権者になる異例の事態

倒産したスーパーに対し買い物客が1万3000人が債権者となった事件が報道されています。



スーパーは現金決済であるため顧客が債権者になることは通常ありませんが、このスーパーは、買い物客の釣り銭をカードに記録して預かり、一定額に達すると預かり額を上回る額面のギフト券と交換するサービスを提供していたことにより、これらのサービスの登録者が債権者となりました。

資金決済法上、プリペイドカードのような前払式支払手段の発行者は、未使用残高の2分の1以上に相当する発行保証金を供託することが義務づけられています。
今回のサービスが資金決済法の適用を受けるものであるかは明らかではありませんが、スーパーは供託をしておらず、預り金の記録もなされていないようです。

また、本サービスでは、精算時にスーパー側が100円未満の釣り銭を預かり、合計2千円をためると、2500円分のギフト券などと交換できるカードを発行していたとのことですが、業としての預り金を規制する出資法上の問題はなかったのでしょうか。

預り金は各人につき2,000円以下となっていることや一般債権者に対する配当の見込みがないため今後大きな混乱はないようですが(手続上、配当見込みがない場合に破産債権の調査は行いません)、もしも金額が大きかったり、一般債権者に対する配当がなされるならば債権額の確定等で大きな問題が生じることになります。

ところで、破産手続においては、裁判所は債権者に対し破産手続開始通知書を発送するのですが、その費用は申立人が負担し、申立の際に郵便切手を裁判所に予納する扱いです。
本件のように13,000人の債権者が存在し、1名につき82円分を予納する場合、その合計は1,066,000円となります。報道によるとスーパーは予納することができたとのことですが、予納できる程度の現金が残っていない場合は大変な事態となっていたところです。


実務上、プリペイドカード等を発行している会社が自己破産等を申し立てる場合、申立代理人である弁護士は、本件のような「隠れ債権者」がいないかどうかを確認し、そのための実費を見込んで早めに現金等を引き継いでおくことが必要でしょう。

2014年9月12日金曜日

改正労働安全衛生法によるストレスチェック制度のまとめ

本年の通常国会により、労働安全衛生法が改正され、従業員50人以上の事業所は、年1回、従業員に対してストレスチェックを実施することが義務付けられることになりました(50人未満の事業所については努力義務となります。)。

厚生労働省 リーフレット「労働安全衛生法が改正されます」
      改正労働安全衛生法Q&A集

ストレスチェックに関する改正法の施行は来年12月までの政令で定める日です。


以下、ストレスチェック制度の概要をQ&A形式でまとめてみます。
  
Q ストレスチェック制度の目的は?
A 労働者のストレスの程度を把握することにより、労働者自身のストレスへの気付きを促すとともに、職場改善につなげていく一次予防を主な目的とした制度であり、精神疾患の早期発見を行うことを一義的な目的とする制度ではありません。

Q ストレスチェックの結果を事業者は知ることができるか?

A ストレスチェックの結果は、実施者(医師、保健師等)から直接本人に通知され、本人の同意なく事業者に通知することは禁止されます(法66条の10第2項)。この点で、通常の健康診断とは異なる取扱いとなります。
実施者や実施事務に従事した者には守秘義務が課せられます。

Q ストレスチェックの対象者は?

A 一般健康診断と同じく、常時使用する労働者が対象となる予定です。

Q 労働者にストレスチェックを受ける義務はあるか?

A 労働者にはストレスチェックを受ける義務は課されていません。ただし、事業者は、希望の有無にかかわらず、対象となる労働者全員にストレスチェックを受ける機会を提供する必要があります。

Q ストレスチェックの結果について、個人の結果が分からないように加工して事業者に提供することは、労働者の同意なしに可能か?

A 原則として可能ですが、集団の単位が小さいこと等で個人の識別が可能な場合は当該労働者の同意が必要です。

Q 法66条の10第3項の「面接指導」とは?

A 事業者は、ストレスチェックの結果の通知を受けた労働者であって厚生労働省令で定める要件に該当する者が希望したときは、医師による面接指導を受けさせなければなりません。
「面接指導」とは、問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うもので、医師以外は実施できません。
事業者は、面接指導の結果に基づき、医師の意見を聞いた上で、労働者の健康を確保するため就業上の措置を講じなければなりません(法66条の10第3項、第5・6項)。

Q 労働者が面接指導の申出をした場合の不利益的な取扱いの禁止とは?

A 事業者は、労働者が面接指導の申出をしたことを理由に不利益な取扱いをしてはなりません(法66条の10第3項)。不利益的取扱いとは、面接指導の後に当該申出をしたことを理由に解雇、減給、降格、不利益な配置転換がなされた場合が考えられます。


Q 事業者は面接指導の結果を労働者の同意なく把握できるか?

A 面接指導は労働者の申出に基づくものであり、結果に基づく就業上の措置が事業者に課せられています。そのため、事業者は、労働者の同意なく結果を把握することができます。

2014年9月8日月曜日

絵画をいただきました

大学時代のサークルの同期の皆様から事務所開設祝いの絵画をいただきました(早稲田大学稲吟会同期の皆様、誠にありがとうございます)。

尾崎行雄という画家の「モンマルトル」という作品です。白を基調とした色遣いで心が落ち着く絵ですね。
これまで壁面に装飾がなかった会議室に早速絵を飾ったところ、ご覧のとおりうるおいのある情景になりました。
 


 
法律事務所に来所される方々の多くは悩みや不安を抱えていらっしゃいますが、この絵をご覧いただき少しでも少しでも心和んでいただければと思います。

2014年9月5日金曜日

食べログ掲載の投稿情報の削除を認めない裁判例について


今月4日、飲食店経営会社が、「食べログ」を運営するカカクコムに店舗情報の削除などを求めた訴訟で、札幌地裁は請求を棄却する判決を言渡しました。
 
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG0402Y_U4A900C1CR8000/


判決理由で長谷川恭弘裁判長は「原告の会社は法人であり、広く一般人を対象に飲食店を営業しているのだから、自己の情報を『個人』と同じようにコントロールする権利はない」と指摘。さらに「原告の請求を認めれば、情報が掲載される媒体を選択し、望まない場合は掲載を拒絶する自由を原告に与えることになる。他人の表現行為や得られる情報が恣意的に制限されることにもなり、容認できない」との判断を示した。

本判決については、表現の自由や知る権利との関係では、個人と企業を峻別した上で、企業が自己の情報をコントロールする権利を認めない点が注目されます。この判断の背景には、法人登記等で一定の企業情報が開示されている実態や「企業は公的存在である」との前提があるように思われます。

企業からは「記事に事実と異なることが書かれているがどうしたらよいか」といった相談を受けることがあり、企業が自社について事実に反する情報が広まることについてセンシティブであることは常々感じるところです。
しかし、裁判所は、憲法上の人権である表現の自由を重視する傾向があることは間違いがありません。
実務的には、企業が自己の情報を掲載した記事について、メディアに訂正・削除を求める場合は、当該記事が名誉毀損や業務妨害等による不法行為にあたることを主張する必要があるでしょう。

上記判決の原告は2012年ごろ、食べログに「客を40分待たせている」などと事実とは違う否定的な内容を投稿されたため、来客数が激減したと主張していたとのことです。

このような記事は掲載時に直ちに真実性が疑わしいとはいえませんので、判決の結論は妥当といえますが、一見して事実に反することや誹謗中傷性が明らかな記事の場合は結論が変わってくるでしょう。

(追記)
本判決の全文が裁判所サイトに掲載されています。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/462/084462_hanrei.pdf