2014年2月20日木曜日

中小企業再生スキームとしての特定調停に関する裁判所からの要請


中小企業金融円滑化法が昨年3月末に失効したことへの対応策の一つとして、昨年から簡易裁判所の特定調停制度を活用するスキームが導入されています。

ところが、本年2月、東京地方裁判所は、弁護士会に「円滑化法終了スキームとしての特定調停の利用について」と題する文書により、気になる要請を行っています(下線部は筆者)。

・・・ところで,特定調停スキームは,経営改善計画案やこれに基づく調停条項案について金融機関や信用保証協会等から同意が得られる見込みがある,すなわち,少なくとも金融機関等の支店の取引担当者レベルでは既に同意が得られており,最終決裁権限者(本店債権管理部等)の同意が得られることが見込まれるなどの状況にあることを前提として,簡易裁判所による早期の紛争解決を目指すものです。そのため,このような同意が得られることが見込まれない事案は,特定調停スキームの対象事案としては想定されていません。仮に,申立人が簡易,迅速,低廉な手続を望み,特定調停スキーム利用のために簡易裁判所へ特定調停の申立てをしたとしても,上記の前提を満たしていない事案では,特定調停スキームで想定されているとおりには手続が進まず,調停成立や17条決定といった,申立人の望むような結論を得ることが困難であると予測されます。
 つきましては,特定調停スキームの利用を検討するに当たっては,申立代理人において,日本弁護士連合会作成の前記手引き書を参考にして,対象案件を適切に見極めていただきますようお願いいたします。
従前からこの特定調停スキームは、申立前に債務者である企業が金融機関と十分な協議を行うことを前提している「事前調整型」であるとされてきました。
しかし、今般裁判所が上記のような見解を表明していることの背景には、制度導入後の申立事件において、想定されていた以上に金融機関が調停における合意に応じない実情があるのではないかと思われます。

今後、特定調停を利用するにあたっては、金融機関の担当者との事前相談をしたうえで、調停成立の見込みを見極めることが重要となってくるでしょう。

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 中小企業の事業再生のための特定調停スキームにおける税務上の取扱い

2014年2月18日火曜日

改正パートタイム労働法の国会提出

2月14日に改正パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)が通常国会に提出されました。

新旧条文対照表は以下のとおりです。

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/186-31.pdf

改正法案のポイントについてはこちらをご参照ください。

2014年2月15日土曜日

有期労働契約の無期転換ルールの特例設置の動き

2月14日、労働政策審議会は、厚生労働大臣に対し、有期労働契約の無期転換ルールの特例等について建議を行いました。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000037303.html

厚生労働省は、この建議の内容を踏まえ、本年の通常国会への法案提出に向け、法律案要綱を作成する予定です。

昨年4月から施行されている改正労働契約法では、有期労働契約の通算契約期間が5年を超える労働者に無期労働契約への転換申込権が認められています(第18条)。

しかし、無期転換申込権が発生する前に事業主が雇止めによって労働契約を終了させるおそれがあるため、全ての無期労働者に一律に労働契約法第18条を適用することの不都合性が指摘されています。

このような観点から、既に、大学教員等については、特別法により、無期転換申込権発生ための通算契約期間は10年に延長されています(「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」、「大学の教員等の任期に関する法律」)。

本建議は、無期転換申込権につき、次の特例を設けるべきとしています。

1. 高度専門労働者(一定の期間内に完了する業務に従事する高収入かつ高度な専門的知識、技術または経験を有する有期契約労働者)

企業内の期間限定プロジェクトが完了するまでの期間は、無期転換申込権が発生しない。ただし、その期間が10年を超える場合は無期転換申込権が発生するようにする。

2.定年後に同一事業主または特殊関係事業主に引き続いて雇用されている高齢者

定年後に同一事業主またはこれと一体となって高齢者の雇用機会を確保する特殊関係事業主に引き続いて雇用されている期間は、通算契約期間に算入しない。

そして、本建議は、労働契約の締結・更新時に、事業主が特例の対象となる労働者に対して無期転換申込権発生までの期間等を書面で明示する仕組みを設けるべきとしています。

2014年2月11日火曜日

加工食品の製造者表示義務化の動き

 アクリフーズ事件の影響により、加工食品の製造者名表示を義務化する動きが出ています。


PBの製造者名の表示義務化 マルハニチロ問題で検討開始(ダイアモンドオンライン2014年2月4日)
 ・・・加工食品には「製造者名」または「販売者名」の記載が、食品衛生法やJAS法で求められている。販売者名のみで製造者名の記載を省略する場合は、あらかじめ製造工場を届け出たうえで、製造者を表すアルファベットと数字の記号を製品に表記することが必要となる。これが「製造所固有記号制度」だ。

 製造者名が直接記載されていなくても、記号で調べればわかる仕組みになっている。
 しかし、「消費者は、記号を見ただけではその商品がどの製造者によって作られたのかすぐにはわからず、今回のように一刻を争う事態になったときに、対応できない」と消費者団体等が以前から指摘していた。森大臣の指示を受けて、消費者庁ではこの制度の改定に踏み込む。現在、消費者庁では、13年6月に成立した食品表示法(食品衛生法、JAS法、健康増進法 の3法での食品表示にまつわる法律を統合した法律)の15年の施行に向け、加工食品の表示の細目ルールを決めている最中。このルール作りの中で、製造所固有記号制度についても、「記号だけではなく、製造者や製造工場についても、何らかの形で表示する」方向で検討する見込みだ。


 現行法である「食品衛生法第十九条第一項の規定に基づく表示の基準に関する内閣府令」第1条第2項は、原則として、加工食品に製造所所在地と製造者の表示を義務づけています。
 そして、同府令第10条は、販売者の住所、氏名および販売者である旨ならびに製造者の製造所固有の記号の記載をすれば、製造所所在地および製造者の氏名の表示に代えることができると規定しています。

  現在、スーパーなどではPB商品が主流となってきたため、製造者名が商品に表示されないという問題が表に出てきています。しかしながら、販売者と製造者が異なるということはかなり以前から一般的になっているところです。私も、大手飲料会社の販売する清涼飲料の大半が他の会社に製造委託していると聞いて、驚いたことがあります。


 上記記事でも書かれていますが、PBにおいては、消費者に関する事故やクレームの対応は販売者が負担することが前提となっています。
 今後、製造者表示が義務化されるとすれば、事故発生の際において製造者は消費者から直接の法的責任の追及を受ける可能性が高まることになるため、製造者と販売者の関係や事故発生時の役割分担の見直しが必要になるでしょう。

2014年2月7日金曜日

パートタイム労働法を改正する法律案要綱について



 1月23日、労働政策審議会雇用均等分科会は、「『短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律』(「パートタイム労働法」)の一部を改正する法律案要綱」を答申しました。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000035268.html
 
 この改正法案要綱は、平成24年6月21日の労働政策審議会建議を踏まえたものとなっています。厚生労働省は、この答申を踏まえ、通常国会に改正法案を提出することになります。

 今回の法律案要項のうち重要な部分を見てみましょう。

1 短時間労働者の待遇の原則

 

 事業主が、その雇用する短時間労働者の待遇を、当該事業所に雇用される通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては、当該待遇の相違は、当該短時間労働者および通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないものとすること。

  労働契約法第20条は、有期労働者の労働条件が、有期労働者であることにより無期労働者の労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないと規定しています。
 今回の改正は、短時間労働者(パートタイマー、アルバイト、嘱託社員の呼び方に関わりません。)の労働条件についても、不合理な労働条件の相違を設けることができないとの原則を明示するものです。

2 差別的取扱いの禁止の対象短時間労働者の範囲の拡大等

 

 差別的取扱いの禁止の対象となる通常の労働者と同視すべき短時間労働者について、事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているものとの要件を削除すること。


  現在のパートタイム労働法では、以下の3要件を満たす短時間労働者について、待遇(賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用を含む。)の差別的取扱いを禁止しています(第8条)。

 ①職務の内容が通常の労働者と同じであること
 ②人材活用の仕組みや運用等が全雇用期間を通じて通常の労働者と同じであること
 ③契約期間が無期または反復更新によって社会通念上無期と同視されること


  今回の改正は、③の要件を削除することで、差別的取扱い禁止の対象となる短時間労働者の範囲の拡大を目指すものです。
 もっとも、依然として②の要件が必要となる以上、改正後も差別的取扱い禁止の対象となる短時間労働者はさほど拡大しないため、短時間労働者の保護としては必ずしも十分なものとはいえません。
 しかしながら、 パートタイム労働者も正社員も「転勤」、「職務内容の変更」、「配置の変更」が「無い」場合は、②の要件を満たすことになりますので、事業者は今後の改正の動きに注意が必要です。


 以上のほか、「雇用管理の改善等に関する措置の内容の説明義務の新設」、「相談のための体制の整備」、「行政への報告の拒否等を行った事業主への過料や勧告に従わない事業主名の公表」が法律案要綱の内容となります。

2014年2月2日日曜日

経営者保証ガイドラインの適用開始

 日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会を事務局とする「経営者保証に関するガイドライン研究会」が公表した「経営者保証に関するガイドライン」 の適用が2月1日から開始されました。

(経済産業省のサイト)
http://www.meti.go.jp/press/2013/01/20140130004/20140130004.html
(一般社団法人全国銀行協会のサイト)
http://www.zenginkyo.or.jp/news/2014/01/16130000.html
(日本商工会議所のサイト)
http://www.jcci.or.jp/sme/assurance.html

 本ガイドラインは、経営者保証に関する中小企業・小規模事業者、経営者および金融機関による対応に関する自主的自律的な準則として、昨年12月5日に公表されました。

 本ガイドラインの概要は、以下のとおりです。

1.経営者保証に依存しない融資の促進


 金融機関は、①法人と個人が明確に分離されていること、②法人と経営者個人間の資金のやりとりが社会通念上適切な範囲を超えないこと、③法人のみの資産・収益力で返済が可能と判断し得ること、④法人から適時・適切な財務状況等が提供されてていること等の事情が将来にわたって充足すると見込まれるときは、経営者の個人保証を求めない可能性や代替的な融資手法(条件付保証契約等)の活用について検討する。

2.経営者保証の契約時の金融機関の対応

 金融機関が経営者保証を締結する場合は、契約締結の必要性等について丁寧かつ具体的に説明し、保証人の資産・収入の状況等を考慮した適切な保証金額を設定する。

3.既存の保証契約の適切な見直し

主たる債務者において経営の改善が図られたこと等により、主たる債務者および保証人から既存の保証契約の解除等の申入れがあった場合は、金融機関は、上記1に即して、経営者保証の必要性や適切な保証金額等について真摯かつ柔軟に検討を行う。
 事業承継においては、金融機関は前経営者の保証債務について、後継者に当然に引き継がせるのではなく、上記1に即して、保証契約の必要性等についてあらためて検討する。前経営者から保証契約の解除を求められた金融機関は、前経営者が引き続き実質的な経営権・支配権を有しているか、当該保証契約以外の既存債嫌悪保全の状況等を勘案しつつ、保証契約の状況について適切に判断するものとする。

4.保証債務の整理


 主たる債務者が法的倒産手続を申し立てた場合等の本ガイドラインの定める要件を満たす保証人は、金融機関に対し、保証債務の整理を申し出ることができる。
 本整理において、金融機関は、保証債務の履行について、一定の経済的合理性が認められる場合、すなわち本整理を利用した場合の回収額の増加額が見込まれる場合、当該増加見込額を上限として、①破産手続上の自由財産(現金の場合は99万円)、②一定期間の生活費に相当する額(期間は年齢に応じて算出)、③「華美でない」自宅や事業継続に最低限必要な資産等を残存資産として保証人の手元に残すことを検討するものとする。

 本ガイドラインが今後の中小企業の金融や事業承継に与える影響は大きいものと思われます。そして、中小企業の経営者は、本ガイドラインの適用を受けるためにも、会社と経営者個人の資産・経理を明確に区分すること等の対策が必要となるでしょう。